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お釈迦さま物語 [釈迦]

巨大な樹木も一粒のタネから

その村には、大きな多根樹があった。
天を摩するような高さを誇り、幹太く、
思い思いに広げた枝葉の下には、
数百人が遊んでもまだ猶予がある。
自らの重さを支えるように、枝が地に伸びて根ざし、
樹そのものが、ひとつの林のように見えた。
ある日、尊い方がお弟子を連れて村を訪れ、
托鉢をして歩かれた。
たまたま、そのお姿を拝した貧しい女が深い尊敬の念を起こした。
「なんと尊いお方だろうか。ぜひ何か差し上げたい」
と、布施を志す。
この尊貴なお方こそ、仏陀・釈迦牟尼世尊であることを彼女は知った。
女は世尊に、自分たちの昼食のために用意した「麦こがし」を施すことにした。
大麦を煎って焦がし、うすでひいて粉にしたものである。
鉢に麦焦がしをを差し上げた時、
釈尊が弟子の阿難に向かって、
こうおっしゃっているのを聞いた。
この女は今の尊行によって、やがてさとりを開くであろう
すると傍らにいた彼女の夫が、おもむろに仏陀に歩み寄り、
腹を立てた様子で食ってかかった。
そんな出任せ言って、麦こがしを出させるな。
取るに足らぬ布施でどうしてそんな果報が得られるか

釈尊は、静かにおっしゃった。
「そなたは世の中で、これは珍しいというものを見たことがあるか」
“いきなり何だ”。男は戸惑いつつも、
「珍しいもの」と問われ、村の大樹を思い出した。
「あの多根樹ほど不思議なものはない。
一つの木陰に500両の場所をつないでも、
まだ余裕があるからな」
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続けて仏陀は問われた。
「そんな大きな木だから、タネはひきうすぐらいはあるだろう。
それとも飼い葉桶ぐらいかな」
「とんでもない。そんな大きなものではない。
ケシ粒のほんの四分の一ぐらいしかない」
「そんな小さなタネから、そんな大きな木になるなんて、
だれも信じないね」
釈尊の言葉に、男は大声で反論した。
「だれ一人信じなくても、オレは信じている」
ここで釈尊は言葉を改め、こうおっしゃった。
どんな麦こがしの小さな善根でも、やがて強縁に助けられ、
ついにはさとりを開くこともできるのだ

当意即妙の説法に、夫は自身の誤りを知らされた。
直ちに己の非をわび、夫婦そろって仏弟子となったのである。



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