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初転法輪(しょてんぽうりん)-----ご布教の始まり [ブッダと仏弟子の物語]

 (真実の仏教を説かれている先生ご執筆の『とどろき』より載せています)
   初転法輪(しょてんぽうりん)

                 ご布教の始まり

 

「おい、大変だ。太子がこちらに向かってくるぞ。

あの堕落した悉達多(しっだるた)が・・・」

その声に、ほかの4人も瞑想を中断してその方角を眺めた。

遠く、ゆっくりと、人影が大きくなってくる。

紛れもなくそれは、彼らが仕えていた

釈迦族の太子・悉達多であった。

「一体、何をしに来たのだろう?」

仲間の一人の声に、ムキになって

橋陳如(きょうちんにょ)は返した。

「ともかく彼は苦行を棄てて堕落したのだ。

あんな者を相手にしてはならない」

5人の修行者は車座になり、修行のフリをしてかかわらぬように

示し合わせた。

彼らがこれほどまでに太子を避ける訳は、こうである。

 

数週間前まで、5人は太子と苦行をともにしていた。

もともと橋陳如たちは、太子の身の回りの世話を、

と父・浄飯王(じょうぼんのう)によって遣わされた臣下であった。

故郷のカピラ城を捨て、真理を求めて修行を始められた太子を、

父王は捨ておけなかったからである。

だが橋陳如らの来訪を、太子は拒絶された。

身の回りの世話などされては修行にならぬ、

というのが理由だった。

そこで彼らは、「ともに修行いたしますので、

どうかおそばにいさせてください」と申し出、

ようやく起居をともにすることを許された。

それは初めこそ王の命を守るための出家であったが、

5人はやがて、太子の気高き求道心に引かれ始める。

ことに橋陳如は、太子の際だった苦行を目の当たりにして、

心から真理を求めるようになっていった。

 

修行を始めてから、6年がたとうとしていたある日のこと。

太子はふと、何も言わずに近くを流れるニレゼン河へ向かって

歩き始めた。

あとを追った5人はわが目を疑った。

太子が河で沐浴(もくよく)し、黙々と身を清めているではないか。
のみならず、あろうことか、女から乳粥の布施を受けたのだ。

それは苦行の断念を意味している。

橋陳如たちは、口々に太子をののしった。

「彼は弱い心に負け、苦行を棄てた。

悉達多は堕落したんだ」

5人はすぐに太子から離れてその場を去り、

自分たちの修行を続けるため、

ここ波羅奈国(ばらなこく)の鹿野苑(ろくやおん)へと

やってきたのである。

 

その悉達多が、こちらへ向かってくる。

5人は気配を感じながらも、視線を向けぬよう努めた。

太子の様子が別れる前と異なっているのは

遠目にも分かっていた。

彼らは太子の変化を確かめたくなって、そわそわしだした。

互いに、さっき交わした約束などもう守っておれない気持ちになり、

続けざまに、その尊い姿を拝したのである。

5人の修行者は知った。

ーー悉達多は堕落などしていない。

太子は大覚を成就なされたのだ。

「せ・・・世尊!!」

一斉に叫びながら御許に駆け寄り、ある者は仏陀を迎え、

ある者は衣鉢をとり、ある者は座を設け、ある者は洗足水をもって

仏足を礼拝した。

仏陀の威徳に、皆、ぬかずいたのである。

「我は一切の知者となれり。一切の勝者になれり。

我ついに永遠の目的を成就せり。

我はそなたたちに無上の法を授けに来た。

ここに真理を説こうぞ。よく聞くがよい」

これが地球上における、仏陀の初めての説法である。

初転法輪といい、人々の荒れ果てた心の大地を、

平らかに耕す法輪を転ぜられた初の法えんであった。

釈尊、45年間のご布教が、ここに始まったのである。


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